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ビジネステクノロジーエンジニア @okash1n のブログです

インボイス制度開始にあたって副業エンジニアが考えるべきこと

はじめに

令和5年10月1日からインボイス制度が開始されるにあたって、副業情シスとしてはどのように対応すべきか気になったので色々調べてみました。

注意点

この記事では私を含めた副業情シスやエンジニアをターゲットにしているので、インボイス制度における声優やデザイナーなどに影響する「インボイス制度では本名を晒さないといけない」という問題は取り上げません。

また、この記事は売上1000万に満たない免税事業者の副業個人事業主をターゲットにしています。

また、私は税務の専門家ではなく、あくまで自分の理解の為に自分が調べたことを書いておりますので記事の正確性・完全性は担保できません。不安な方は必ず税理士などの専門家に相談して対応してください。

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一応自分の税理士さんには確認して「この整理で全体像としては問題無い」と言ってもらってます。

至った結論

「年間売上1000万円未満の免税事業者は、取引先から登録を求められたり、それを理由に契約を打ち切られたりしない限りは何もせずに今まで通りに請求書を発行すれば良い。」という結論に至りました。

インボイス制度への対応で理解しなければいけないこと

大きく以下の4つの項目を理解しておかないと、インボイス制度への対応は理解できません

  1. 消費税とは
  2. 仕入税額控除とは
  3. 免税事業者とは
  4. インボイス制度とは

1. 消費税とは

消費税とは消費(ものやサービスを買う)する際に課税される税金で、間接税の一種です。

例えば固定資産税や都市計画税などは年に一回通知が届き、自分で納税するので直接税ですが、消費税や酒税などは消費者や事業税が直接納税しないので間接税です。

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わかりやすくするために軽減税率や簡易課税は無視しています

さて、上記の図では事業者は10円を納税していますが、実際には年間通してもっとたくさんの取引があり、逆に自身が取引先に対して消費税を支払うケースもあります。

ここで出てくるのが「仕入税額控除」です。

2. 仕入税額控除とは

受け取った消費税から払った消費税を引いて納税
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事業者は、年間通して顧客から売上として受け取った消費税から、仕入れや経費として様々な取引先に支払った消費税を引いて、その差額を納税します。これが「仕入税額控除」です。

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実際には、さらに特定の倍率をかけて計算しますがわかりやすくするために割愛しています。(詳細は以下)

3. 免税事業者とは

簡単に言えば、年間総売上が1000万円未満の事業者は免税事業者として消費税の納税義務が免除されています。(詳細は国税庁ホームページをご参考ください)

先程の図で事業者は受取消費税5000万円から支払消費税4000万円を引いた1000万円の納税義務が発生していますが、前提としてこの義務は免税事業者には発生しません。

免税事業者は税込550万円の売上があったとしても、そのうちの消費税50万円を納税する必要はなく、そのまま売上として計上して良いことになっているのです。

裏を返せば以下のように言えます。

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免税事業者には仕入税額控除は全く関係ない

消費税の納税が必要ないので、仕入税額控除は当然関係ありませんね。

4. インボイス制度とは

いよいよ、インボイス制度について見ていきます。国税庁のインボイス制度に関するホームページは以下です。

様々なPDFが置いてありますが、請求書を発行する側にとって最も大事なことは以下のPDFに書いてあります。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/300416.pdf

色々読んで見ましたが、インボイス制度を事業者の立場で出来るだけ簡単に言い表すのであれば「登録済みのインボイス発行事業者が発行するインボイス(適格請求書)に書かれた税額しか仕入税額控除出来なくなる制度」です。

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特定の業種や特定の取引については、帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる場合があります。
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制度施行後も令和8年9月30日までは仕入税額相当額の80%、令和11年9月30日までは仕入税額相当額の50%が控除できる経過措置があります

さて、ここで先程の免税事業者について思い出してみましょう。

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免税事業者には仕入税額控除は全く関係ない

インボイス制度は仕入税額控除に関する制度なので、以下のように言えます

💡
インボイス制度は免税事業者には全く関係ない

インボイス制度は個人事業主に不利?

先程このように書きました。

💡
インボイス制度は免税事業者には全く関係ない

これを読んでいる皆さんはこう思ったでしょう。

  • いや待ってよ、じゃあなんでインボイス制度は個人事業主に不利って言われてるの?
  • 関係無いならなんで騒がれてるの?

わかります。

今から詳しく説明しますが、このように騒がれるのには主に以下2つの複合的な要因があります。(個人名の露出の件は取り上げません)

  1. インボイス制度登録事業者は売上に依らず課税事業者となる
  2. 課税事業者からすると適格インボイス以外の請求書は受け取りたくない

1. インボイス制度登録事業者は売上に依らず課税事業者となる

まず抑えておくべきポイントですが、インボイス制度登録事業者になると自動的に課税事業者になります

売上が1000万円未満でもインボイス登録事業者になることは可能ですが、その場合免税事業者でなくなり課税事業者になってしまいます。

例えば、副業で年間税込330万円稼いでいた免税事業者がいるとしましょう。その事業者は恐らくお客さんや取引先から消費税を受け取っています。

小売であれば当然消費税込で価格設定しているでしょうし、我々のようなエンジニアも副業先に対して税込であれ税別あれ消費税を含んだ請求書を発行し、消費税を含んだ金額を受け取っているはずです。

課税事業者になると330万円の売上のうち30万円は受取消費税です。そこから様々な経費で支払った消費税を仕入税額控除して、その差額の納税義務が発生します。

単純に個人の懐から出ていくお金が大きくなるので、これは困ったことです。今までと売上は変わらないのに出ていくお金だけ増えればシンプルに手元に残るお金が減ります。

2. 課税事業者からすると適格インボイス以外の請求書は受け取りたくない

さて、インボイス制度はどんな制度だったでしょうか?

登録済みのインボイス発行事業者が発行するインボイス(適格請求書)に書かれた税額しか仕入税額控除出来なくなる制度

でしたね

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例えば先程の図で、事業者は4000万円の消費税を支払っていますが、取引先が全てインボイス未登録事業者で、非適格な請求書やレシートしかもらえなかったら、国に支払う消費税は5000万円になってしまいます。(正確にはこれに倍率をかけて計算する)

これは困りますね。1000万と5000万では大きな違いです。できるだけ控除したいのが課税事業者の本音でしょう。

よってこういった課税事業者は、取引先に対して「登録事業者になってインボイス(適格請求書)を発行してください」といったコミュニケーションを取ったり、場合によっては取引先を変更する可能性が出てきます。

もしくは、インボイス制度非登録事業者に対して

  • 消費税分値下げしてほしい
  • 消費税を抜いた請求書にしてほしい

といったニーズが出てきます。

インボイス登録事業者にならないと不利(と思われている)

課税事業者は適格インボイスしか受け取りたくないので、課税事業者と取引する事業者は「インボイス登録事業者にならないと取引を打ち切られてしまう」可能性が出てきます。

ですが、インボイス制度登録事業者になると消費税を収めないといけないので、今まで通りの売上や単価では手元に残るお金が減ってしまうのです。

インボイス制度登録しなくても、取引先から消費税分の値下げや消費税を抜いた請求書を求められると、これもやはり手元に入ってくるお金が減りますね。

この可能性があるから「インボイス制度は個人事業主に不利」といった意見をよく目にするのです。

でも安心してください。こういった要求は違法行為です。

インボイス制度登録の強要や消費税分の値下げを求めるのは違法

以下の記事が詳しいです。

インボイス制度登録の強要は違法

上記の記事から引用すると以下の通りです。

売り手業者に「○月○日までに適格請求書発行事業者として登録しなければ取引を打ち切る」というようなプレッシャーをかけることは、独占禁止法が禁じる優越的地位の濫用行為に当たる。

インボイス制度未登録事業者に対して消費税分の減額を求めるのは違法

免税事業者に対して仕入税額控除ができない分の損失を取り返そうとして値下げなどを強要した場合は「下請代金の減額の禁止」に抵触する可能性がある。また、たとえ下請事業者の了解を得ていても、規定に触れれば下請法違反となるため注意が必要だ。

「免税事業者から『当社は消費税を納めていないので、その分はお値引します』と言われる場合もあるかもしれません。それに対して親事業者が『分かりました』と返事するだけでも、客観的にやっている行為は下請法違反になってしまうので気をつけましょう」

これも同様で、インボイス制度未登録事業者に対して消費税分の値引きを求めたり、消費税を記載しない請求書を求めるのは下請け法に違反する行為です。

ちなみに例えば個人事業主と税込5,500円の単価の契約をしていたとして「税抜5,500円の請求書に変えてくれ」と求めるのは優越的地位の濫用行為にはならないので違法性は無いと思います(私の意見です)

とはいえ実際にはそういった行為は行われるのでは?

わかります。私も実際にはそういった行為は行われると思います。

まず馬鹿でモラルの無い事業者は何も考えずにそういったことをしてしまうと思います。違法行為とはいえ、弱い立場の事業者はそれに対して訴訟を起こしたりするような体力は無いと思いますし、従わざるを得ないケースも多いでしょう。

そして賢くてモラルの無い事業者は、更新のタイミングなどで特に理由は述べずに非登録事業者との契約を打ち切るケースは出てくると思います。「インボイス制度未登録を理由に解除したのではない」ということにすれば違法性はありませんからね。

確かに不利になるケースは存在する

上記のように確かにインボイス制度によって不利になる事業者は存在するとは思います。もちろんインボイス制度登録をすること自体業務負荷が高いものですし、小さな個人店などが完璧に帳簿を残しているとは思えません。そもそもインボイス制度登録事業者になるには適正な会計が必要になるのです。

取引を続けられるならば気にしなくても良い

さて、そろそろまとめに入ろうと思います。ここからは特に私のような副業エンジニアのような個人事業主にフォーカスして書いていきます。

先の項で書いたように、不利になるケースは存在するのですが、極論今まで通りの取引を続けてもらえるなら何も気にしなくて良いのです

取引先から何も求められない場合

10月以降も免税事業者という制度は存続しますし、受け取った消費税をそのまま売上として計上してよく、消費税の納税義務が無いのは今まで通りなのです。

よって、10月以降もインボイス制度には登録しないし、引き続き免税事業者でいるとして、取引先から何も言われなければ、今まで通り消費税を含んだ非適格請求書を出せば良いと思います。

さて、これを受け取った取引先の対応は概ね以下の3つになると思います

  1. 気にせず仕入税額控除する
  2. 仕入税額控除できないが気にしない
  3. 総額を変えずに次から税抜請求するよう求めてくる
1. 気にせず仕入税額控除する

もしかしたら10月以降、非適格請求書でも仕入税額控除してしまう事業者もいるかもしれません。税理士がついてたらさすがにそんなことは無いとは思いますが、こういった事業者は実際結構出てくると思ってます。

もし受け取った非適格請求書を仕入税額控除していたら、いつか税務署からその事業者は怒られるかもしれませんが、非適格請求書を出した免税事業者側は何らの違法行為はしていないので気にしなくていいのです。

何度も言うように10月以降も免税事業者の制度は存続します。

2. 仕入税額控除できないが気にしない

取引先は我々から受け取った消費税込みの非適格請求書を受け取った場合、その請求書については仕入税額控除できませんが、それを気にしない事業者も多いと思います。

正しく経理を行い、適格請求書と非適格請求書を分けて仕訳すると、非適格請求書をもらった分、今までより仕入税額控除額が小さくなってきますが、総額から見ると微々たるものなので気にしない、というケースです。

これも我々は気にしなくていいです。多少損をしても我々と取引を続けたいということなのでドンと構えましょう。

3. 総額を変えずに次から税抜請求するよう求めてくる

このパターンもあるかもしれません。このパターンが一番誠実でちゃんとした会社かもしれませんね。

正しく処理はしたいが、非適格請求書に消費税は含めてほしくないパターンです。

これも2同様仕入税額控除額は減りますが、我々と取引を続けてくれるということなので気にせず言う通りにしてあげましょう。

まとめ

以上の通り、請求書を出す側の事業者が気にするべきは「今までどおりの取引を続けてもらえるかどうか」だけなのです。

全ての取引先から、消費税分の報酬減額を求められることもなく、インボイス登録を求められることもなく、今までどおりの取引を続けてもらえるのであれば、気にしなくても良いし、「どうすればいいか」を取引先にお伺い立てる必要も無いです。

普通に考えてください。我々のような情シスやエンジニアの副業個人事業主と契約する企業というのは、その必要があるから契約しているのです。我々への支払いの10%が仕入税額控除できないくらいで取引しないというならそもそも副業個人事業主と契約なんてしていないですよ。

もし、先程言ったような取引先が「賢くてモラルの無い事業者」であって、サイレントに取引を打ち切られたとしたら、それはあなたの存在価値が無いだけなので、もっと価値を高められるよう研鑽しましょう。

というわけで、インボイス制度はあんまり気にせず、取引先から何か言われるのを待ってれば良いです。

補足

インボイス制度に登録したくない課税事業者もいると思います。これも違法ではありません。

また、インボイス制度の登録事業者でなくとも、適格インボイスを受け取ることは出来ます。つまり、登録事業者でなくとも、適格インボイスを受け取りさえすれば仕入税額控除は可能です。

それこそ優越的地位にある事業者はめんどくさかったらインボイス制度登録なんてしなくてもいいのです。自分が非適格請求書を出しても相手は受け取らざるを得ないのですから気にしなくていいです。

うーん、なんかこの制度、ちゃんと続くか疑問だな?